東京新聞1月28日朝刊(ウェブ版より)
仏文学者で日本有数の昆虫採集家でもある奥本大三郎さん(61)=埼玉大学教授=が3月、東京・千駄木に「虫の詩人の館」をオープンさせる。寄付集めに奔走し、私財を投じて自宅を建て直した。「昆虫記」で知られるファーブルの資料や世界の標本を展示し、子どもたちに採集の機会をつくるなどして、昆虫を通じた教育の拠点としたいと意気軒高だ。だが、都会の真ん中で昆虫とは?
東京メトロ千駄木駅から徒歩十分の住宅地に出現した白いビル。地下一階、地上四階で、屋上部にかけて緩やかなカーブを描くデザインは、繭(まゆ)の形をイメージした。「冬ごもりの虫がはい出てくる」とされる二十四節気の啓蟄(けいちつ)に当たり、奥本さんの誕生日でもある三月六日のオープンを控え、展示準備に追われている。
「虫捕りは、生命感覚を養う重要な情操教育」であることを長年、主張してきた奥本さん。自宅を移してまで目指すのは「昆虫採集の復権」だ。
自然が身近にあり、子どもたち誰もが網をもって、チョウやトンボを追いかけることに熱中した時代は、遠い昔のできごととなった。
また、虫捕りを体験したことのある人が少なくなったことで、学校でも「殺生がいけないという偽善的な教育がはびこり昆虫採集害悪論が広がっていった」と指摘する。
最近は「昆虫ブーム」ともいわれるが、奥本さんはこれにも批判的だ。昆虫のキャラクター同士を対戦させるゲーム「ムシキング」の流行に引っ張られてのクワガタ、カブトムシ人気にすぎず「バーチャルリアリティー(仮想現実)によるメカのプロレス。ただ消費しているだけで本当の昆虫ブームではない」と言う。
■「都会っ子」に自然の良さを
情報化が進み、都市の流行が地方にも即座に波及する現代社会。「塾通いに追われ、ゲーム漬けで生きる力を失った」子どもたちは、全国共通の問題だとする。
「周囲にいくらでも虫がいる田舎の子どもたちまでも、テレビゲームで遊んでいる。そうした現状を変えるために、まずは自然を知らない東京の子どもたちから訴えていきたい」と“東京発”にこそ、意識改革を目指す場をつくる意義があると強調した。
オープン後は、昆虫採集や、飼育、標本づくりなどの体験教室や展示会などを開く。奥本さんが仲間と栃木県の放置林などを借りて整備してきた“虫の森”も活用するほか、近くのお茶の水女子大(東京・大塚)と協力して、大学構内にチョウや甲虫が好む樹木を植え、都心で身近に昆虫採集ができる場所をつくることも計画している。
施設には、南仏のファーブルの生家を再現した部屋も設け、直筆ノートなど「昆虫記」にかかわるさまざまな資料も展示する。約五〇センチ×約四〇センチの標本箱にして、三千ケースの保存が可能な収蔵庫も備えた。現在は奥本さんの千ケースのコレクションが納められているが、開館後は、保管場所に悩む全国の愛好家から、無料で標本を預かりたいという。
奥本さん自身も、ライフワークとしてきた「完訳ファーブル昆虫記」の第一巻(上)が昨年十一月、集英社から刊行された。個人完訳は世界初で全十巻(二十冊)が順次刊行される。
意外なことに「ファーブルは地元のフランスより、日本での人気が高い」のだという。
「広角レンズのような目を持つ西洋人に対し、日本人の目は接写レンズで、IT、半導体産業の隆盛につながった。それは古くから、虫を見ることで養われた。小さなものを愛(め)でる伝統文化を絶やさないため、いまこそ教育が必要なのです」
「虫の詩人の館」は、入場無料で金、土、日曜日の午後開館。問い合わせはNPO日本アンリ・ファーブル会=電03(3824)1580=へ。
文・浅田晃弘/写真・五十嵐文人
※ 子供のときに古川(晴男?)訳のファーブル昆虫記を読みました。そのころは、ファーブル昆虫記かシートン動物記か、という感じで、多くの子供が読んでいたように思います。今はどうなのでしょうか。高校のときに岩波文庫のファーブル昆虫記にチャレンジした記憶もあります。実は20年くらい前に奥本教授の新訳・ファーブル昆虫記が刊行され、1巻買ったのですが、今回どうしようか・・・と悩んでいます。
最近のコメント